中国と日本の違いに触れる「広州夜話」【読書感想文】

今は昔、竹取の翁という者ありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろずのことに使いけり。

名をば、さぬきの造となん言いける。

 

その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。

あやしがりて寄りて見るに、筒の中光たり。

それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。

 

 

 

皆さんご存知、かぐや姫の元となった「竹取物語」の冒頭。

表記は正式なものと多少違えど、おそらく文はあっているはず。

(確認したところ、合っていました)

 

 

私はよく、この文章を思い出しては呟いてしまう。深い意味はない。

 

他にも、祇園精舎の金の声でおなじみ「平家物語」や、春はあけぼの…と続く「枕草子」なども冒頭の段落は覚えている。

 

誰に聞かせるわけでもなく、口から古典が流れ出るたびに「よく覚えているね」と感心される。

 

そりゃあだって、覚えているに決まっている。

あんなに何度も繰り返し、学校で暗記させられたのだから。

 

期末試験の設問が丸ごと「竹取物語の冒頭部分を、全文書きなさい」だなんて、やっつけ仕事のひどい教師もいた。

 

多くの人が学校でこの古文を暗唱させられたにも関わらず、今でもしっかり覚えている人はそれほど多くない。と、思う。

 

 

中国人と古典文学

 

中国では、小学校で300篇もの詩を暗記するという。

長い歴史を誇る中国では、唐詩や漢詩など、時代を表す詩が多く存在する。

 

暗記する点で言えば、日本人学生と一緒かもしれないが、この「広州夜話」に登場する李利(リリ)はちょっと違う。

 

暗記しているだけでなく、その詩にまつわるエピソードも覚えている。さらには、自分の解釈もきちんと交えている。

 

とある商社に務める加園さんは、中国駐在の時に体験した何気ない日常を、この「広州夜話」の中に綴っている。

 

 

話が語られるのは、広州にある日本料理バーの「羊城」

そこで働く女の子が、李利。

 

 

冒頭のエピソードを、少しだけご紹介。

 

 

春眠あかつきを覚えず

 

香港に近い場所に位置し、冬でも最低気温が9度という亜熱帯の街、広州。

だんだんと春が近づき、暖かさを覚える。

しかし、春の訪れと共に、蚊も活発に動き出す。

 

著者である加園さんは、夜中に何度も蚊に刺され、痒くてしかたがないと、李利に愚痴をこぼす。

 

そんな李利は、こう返した。

 

春眠不覚暁(春眠あかつきを覚えず)

処処蚊子咬(あちこち蚊に食われる)

 

これは、孟浩然の「春暁」という唐詩を元にした替え歌だそう。

処処聞啼鳥(チューチューウェンティーニャオ)と

処処蚊子咬(チューチューウェンズヤオ)を語呂合わせしているとのこと。

 

すぐにこの詩が出てくる李利は賢い子なんだな、と思ったけれど、その次の会話にもっと驚いた。

 

孟浩然のこの「春暁」は唐詩の中でもトップクラスに入る名詩です。みんなが知っているからこそこんなふうに悪戯して、そう、替え歌にして遊ぶの。

 「広州夜話」広州の娘たち より

 

 

みんなが知っているからこそ、こんな風に替え歌にして遊ばれる。日本との違いを感じてしまった。

 

私たち日本人(少なくとも私は)暗記しただけで、遊んだ記憶なんてない。暗記するのすら大変で、遊んでる余裕なんてなかった、と思う。

 

さすが300もの詩を暗記する、中国の小学生…。というか、300もの詩を覚えろって言われたら、こうやって遊ばないと気が遠くなるのかもしれない。

 

この「春暁」のエピソード以外にも、日本が大好き李利ちゃんは、流暢な日本語で、漢詩や唐詩の解釈を教えてくれる。

 

中国の詩や文化について知ることができると同時に、随分と固定観念を持って「中国」という国を見ていたことに気づく。

 

中国は、私が思っている以上に発展しており、それでいて、まだまだ途上な国だった。

 

 

 

この本の中で一番気になったのは、バーで働く中国人の女の子たちと、著者の会話が少しセクハラの香りがするところ。

 

やらしい会話、というのはどこにでも存在するのだけれど、そうじゃない。

なんだか、こう、古臭い言い回しが多い。

 

言葉を選ばないとするなら「え、きも」って思ってしまう場面も多々あった。なんというか、シンプルにきもい。そんな表現。

 

まあ、仕方ないよね、昭和の時代なんだろうな…

 

そう思って開いた最後のページに、目を疑う。

 

 

<著者紹介>

・・・・・・・・・、2011~12年、中国の広州に駐在。

 

2013年 8月 第1刷 発行

 

 

 

日本も思っている以上に発展していて、それでいて、途上のままだった。

 

 

とはいえ、中国の古典文学についてはとても勉強になるので、気になる方はこちらからどうぞ。