文学少女のラノベ感想文【千歳くんはラムネ瓶のなか】

f:id:chiikama_chan:20210611132205p:plain

 

こんにちは、匙です。

ライトノベル、通称ラノベを勉強中です。

 

私の中でラノベといえば、かの有名な「涼宮ハルヒ」シリーズなのですが、知人にそのことを伝えると「ハルヒは古典文学ですよ」と言われてしまいました。

 

古典には古典の良さがありますが、今のラノベ文学を知らねば!と思い、慌てて書店に飛び込むものの、その多さに立ち尽くすばかり。少しばかり情報収集してから来れば良かったと、後悔することに。

 

とりあえず古典文学「涼宮ハルヒ」を手に取り、懐かしさを胸に抱いていると、隣に男子高校生が2人やってきました。

 

1人は黒縁メガネが印象的。もう1人はやたら大きくて鍋でも入ってそうなリュックを背負っています。

 

ずらりと並ぶラノベ棚の前で立ち尽くす私。邪魔になるかな、と少し左に寄ったところで少年の声が飛び込んで来ます。

 

「いいか、ラノベを選ぶコツは…」

 

!!!

 

そう!それ!!知りたかったやつ!!左に寄せた身体を、少しだけ右に傾ける。全神経を隣の黒縁メガネに注ぎます。なるほど、これが全集中ですね。

 

「そもそも、ラノベは見ての通り、こんなにたくさんある」

 

うんうんと激しく首を振る、鍋を担いだ少年と私。たくさんというか、あり過ぎです。しかもみんな、同じようなタイトルをしてやがります。

 

「こんなに膨大なラノベの中から、絶対に面白いものを選ぶ方法がある」

 

絶対に?そんな確実な方法が存在するとは。鍋少年も食い気味で尋ねます。

 

「まじで?頼む、教えてくれ」

 

はい、私からもお願いです。頼む、教えてください。

 

「簡単だ。それはな」

 

チラリと横目で声の主を盗み見ると、そこには恍惚とした表情の少年が。

少年はラノベ棚に手を伸ばし、惚けた眼差しで続けます。

 

「タイトルで選ぶんだ」

 

 

タイトル?????? 

タイトルだけ????????

 

「タイトルで選んだやつは、絶対に面白い。次も必ず買ってしまう。自分の直感で、好きなタイトルを選べ。それだけだ」

 

 

こうして私は少年に深々と頭を下げ、1冊の本をレジに持っていくのでした。

  

千歳くんはラムネ瓶のなか

黒縁メガネ少年の教えによって導かれたのは、こちら。

裕夢さん著書『千歳くんはラムネ瓶のなか』 

  

この作品は「このライトノベルがすごい!2021」で文庫部門1位を獲得しています。

手に取った後、帯にデカデカと書いてあったので知りました。私の直感も捨てたもんじゃないですね。

 

タイトルに惹かれたのはもちろん、私はラムネが好きです。夏になるとラムネばっかり飲んでいます。

 

お風呂上がりや寝起き、散歩中の公園、行きつけの居酒屋と、とにかくラムネを飲んではせっせとビー玉を集めるのです。

 

ちなみにラムネの蓋として使われているのはA玉(エーダマ)で、その規格を外れたのがB玉(ビーダマ)です 

 

あ、あと、 ちとせ飴も好きです。

 

そんな訳で、好きな単語が2つも組み込まれているので、タイトルに惹かれてしまいました。

とっても優しく、素敵なタイトルです。読んでなくても、もう面白いです。買うしかありません。 

 

あらすじ

千歳 朔(ちとせ さく)は、超絶リア充高校生。

整い過ぎた甘いルックス、成績優秀、スポーツ万能と全てにおいて完璧なスクールカーストの頂点に君臨する、まさに主人公。

 

そんな千歳の周りには、やはりスーパーきらきらリア充男女が集まる。彼らは常に自分たちの格を守り、気の置けない友人たちとかけがえのない学校生活を送る。

 

そんな中、千歳は不登校になった山崎 健太(やまざき けんた)を学校に連れ出すよう、担任から命じられる。

 

「千歳朔」というヒーローであり続け自分の美学を貫くために千歳は、山崎の家を訪れ「学校に来いよ」と説得し始める ———

 

 

『千歳くんはラムネ瓶のなか』はここがスゴイ

古典作品『涼宮ハルヒ』しか知らない私は分からなかったのですが、通常ラノベというのは非リアを描くことが多いそうです。

 

ところがどっこい。『千歳くんはラムネ瓶のなか』は、なんとリア充目線のお話。それも、限りなく甘酸っぱくしゅわしゅわとしたリア充青春ストーリーなのです。転生も異世界もありません。

 

私の超絶偏見ですが、おそらくラノベを好んで読む層の8割は、非リアと呼ばれる側に振り分けられるのではないでしょうか?(かく言う私も非リア側です)

 

非リアが一生かかっても得られない激甘しゅわしゅわ青春ストーリーを、目の前でまざまざと見せつけられる。普通は腹が立ちそうなものです。

 

むしろ、非リア層の多いラノベに、果たしてリア充サイドの話は通用するのか?

 

そんな疑問をあっという間に蹴散らすのが、『千歳くんはラムネ瓶のなか』のスゴイところ。

 

リア充も非リアも関係なしに、刹那に過ぎていく高校生活の青春が、読者の胸にすっと染み込んで来ます。

 

ラノベの骨でもある、個性豊かなキャラクターたちがそれを実現させているのでしょう。リア充キャラ、なんだかんだ、みんないいやつです。

 

 

山崎 健太くんに自分を重ねる

リア充メイン世界の話で、なぜ「このライトノベルがすごい!2021」を獲得できたのでしょうか?

 

それは、お話がとっても優しいから。

言い換えれば希望的観測ストーリーなのです。

 

「私の学校生活もこうだったのかな」「きっとクラスのあいつらは、こんな風だったんだな」と言う希望を捨てきれないから、だと思います。

 

転生も異世界もありません。主人公はリア充たちで、かつての自分など、その輪の中には存在しません。

非リアである読者は、唯一の非リアキャラ山崎 健太くんに縋るしかないのです。

 

彼は絵に描いたような、典型的な非リアです。非リアというか、もはやオタクです。

 

ラノベ、アニメが好きで、学校には居場所がない。けれど学校外にはラノベサークルがあり、趣味を思いっきり共有できる友人(のようなもの)がいる。

 

学校でみんなの注目を集めるキラキラした人たちを「リア充」「リア充はうざい」「リア充なんて」「どうせリア充は」など、凝り固まった価値観でしか見ることができません。

 

そんな非リア代表格山崎 健太くんが、超絶リア充千歳 朔くんと思いがけず交流することになり、それぞれの立場に触れていく、というのが『千歳くんはラムネ瓶のなか』の魅力の一つです。

 

山崎 健太くんが登場してからは分かりやすい展開でしたが、心情描写が細やかなので、読者が感情移入しやすくなります。

 

むしろ、山崎 健太くん以外のキャラには何一つ共感できません。非リアですから。

 

そもそもリア充ってこんなですか??

リア充って「うむ」とか言うんですか???

ていうかリア充って自分たちのこと「俺たちのようなリア充は…」とか言うんですか???????

 

という感じで、共感は全くできなかったのだけれど、山崎 健太くんはいい仕事をしていました。はい。

 

 

話の着地点

『千歳くんはラムネ瓶のなか』のお話。転生でも異世界でもないので、何がゴールになるかというとやはり人間関係についてかと思います。

 

話の着地点としては、スッとしていて爽やかでした。変なひねりも、意外性もないのだけれど、だからこそ「いいもの読んだなあ」という気持ちになれます。

 

そう、まるでラムネのような爽やかさ。

 

『千歳くんはラムネ瓶のなか』というけれど、本当のところでは、読者の方が千歳くんというラムネ瓶に吸い込まれるのかもしれないですね。

 

 

タイトルで買ったものは、次も必ず買う

という訳で、件の男子高校生アドバイスは的確でした。1巻を読み終えた翌日、気づいたら2巻を持ってレジに並ぶ私。

 

ラノベ初心者の皆さん、ラノベを読もうと思ったらタイトルで買うことをおすすめしますよ!

 

もちろん『千歳くんはラムネ瓶のなか』もおすすめです!

 

 

特にラストシーンの山崎 健太くん、いやもう、めちゃめちゃ可愛いです。思わずがんばれ!負けるな!って応援したくなります。 すっかり健太っちーファンです。

 

イラストも可愛いですよね。アメリカ出身のraemzさんが担当されています。Twitterのプロフィールに「日本語勉強中」と書いてあって、心臓がキュルンキュルンしちゃいまいした。

 

まとめ

リア充だったことがないので確証は得られないのですが、『千歳くんはラムネ瓶のなか』は非リアが望む リア充ストーリーで、きれいなお話でした。

 

そもそも非リアとかリア充とか、そんな言葉は要らないですね。

 

リアルなんていつでも1つしかなく、充実してようがなかろうが、私たちにいつも突きつけられるものですから。残酷なほど真っ直ぐに。

 

ではまた。